【3239】 ◎ 増村 保造 (原作:有馬頼義) 「赤い天使 (1966/10 大映) ★★★★☆ (○ 有馬 頼義 『赤い天使 (1966/05 河出書房) ★★★★)

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先に海外で評価された作品。反戦映画として「ゴジラ」などより傑作。

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赤い天使 4K デジタル修復版 [Blu-ray]」「赤い天使 [DVD]」若尾文子/芦田伸介/川津祐介
「赤い天使」4K デジタル修復版.jpg「赤い天使」1966.jpg「赤い天使」2.jpg 日中戦争が激しさを増す昭和14年、従軍看護婦として中国・天「赤い天使」1.jpg津の陸軍病院に赴任した西さくら(若尾文子)は、入院中の傷病兵たちにレイプされてしまう。2か月後、前線に送られた西は、軍医・岡部(芦田伸介)の下、無残な傷病兵で溢れる凄惨な現場で働く。そこで、以前自分をレイプした傷病兵の一人・坂元(千波丈太郎)と再会する。瀕死の坂元を診て助かる見込みがないと判断した岡部は、治療を諦め輸血を止めようとするが、西は坂元を救うよう頼み込む。ある時、西はかつて岡部に命を救われた兵士の一人・折原(川津祐介)に会う。手術で腕を失い性行為が「赤い天使」3.jpgできなくなった折原を哀れんだ西は、葛「赤い天使」4.jpg藤の末にホテルで肉体関係を結ぶ。だが翌日、折原は病院の屋上から飛び降り自殺する。その後、過酷な手術に忙殺されているにもかかわらず気丈かつ冷静で、判断力を失わない岡部の姿勢に、西は惹かれていく。しかし、岡部が精神の安定を保つためモルヒネを常用しており、そのため性的不能に陥っていることを知る。岡部は西を伴って、さらに激しい前線へと向かう途中、コレラが蔓延した集落で中国軍に包囲される。そうした極限状況の中、西と岡部は激しく愛し合う。やがて中国軍の総攻撃が始まる―。

『赤い天使』.jpg 増村保造監督の'66(昭和41)年10月公開作で、原作は、映画「兵隊やくざ」('65年-大映)の原作者でもある有馬頼義(1918-1980/62歳没)が雑誌「文藝」の'65(昭和40)年1月号から10月号に連載したもの('66(昭和41)年5月河出書房刊、原作タイトルも同じく「赤い天使」)であるため、連載終了後1年そこそこで映画化されたことになります(有馬頼義は、自費出版した『終身未決囚』で1954(昭和29)年上期・第31回「直木賞」を受賞している)。
赤い天使―白衣を血に染めた野戦看護婦たちの深淵 (光人社NF文庫)』(2017)

「赤い天使」9.jpg 戦争の実態を描いた反戦映画の傑作であると同時に、自分が関わった男性がすべて死んでいくという数奇な運命を辿る西さくらという看護師を中心に据えた女性映画でもあります。川津祐介が演じる、戦禍で両腕を失い、自分でマスターベーションできない折原と性関係を結んでやる従軍看護婦という設定は、いかにも増村保造らしいシチュエーションですが、実はこれ、原作通りです(個人的には、以前にNHKの年末特番「映像全記録TOKYO2020 私たちの夏」(2021年12月30日放送)で顔出しで出ていた障害者専門のデリヘル嬢を想起した)。

「赤い天使」p1.jpg これってポルノ映画のモチーフにもなりそうで、実際、映画公開時映画のキャッチコピーも「天使か娼婦か」。今では、差別的放送禁止用語の「きち○い」「かた○」などの言葉が飛び交うということもあり、テレビでの放送も難しい映画とされていたようです。そうしたこともあってか、国内より海外で先に評価されたとのことです(映画評論家のロブ・シンプソンは、「1960年代の日本が生んだ魅力的な映画の一つであり、反戦映画として「ゴジラ」などより、はるかに直接的なアプローチで主題に取り組んだ作品」と述べているが同感)

 原作と最も異なるのは、原作では西には不定期に性関係を持つ軍部の機密機関に属する相手がいる点であり(この相手とも最初は犯されるような感じで関係を持ったのだが)、彼女は彼をさほど愛しているわけではないですが、次に会える機会を心のどこかで待ち侘びているという設定になっている点でしょうか。映画では、この相手は出てきません(そのことでヒロインに聖性を持たせているのは巧み)。

 激しい戦闘シーンもさることながら、芦田伸介が演じる軍医の岡部が片っ端から負傷兵の手足を切り落とし、それらが積み上げられている凄惨な野戦病院の描写が凄まじかったです。毎日こんな状況の中で仕事していれば、そして精神安定剤代わりにモルヒネを打っていればインポテンスにもなるのも無理ないという感じです。

 岡部が感じている戦地での医療行為に対する虚しさは、折原が西と交わった翌日に自殺したことによく表されており、折原は、仮に国に戻っても故郷には戦死者として知らされ、どこかの施設で飼い殺しにされるのが分かっていて(まるでドルトン・トランボ監督の「ジョニーは戦場へ行った」('71年/米)みたいだが、この邦画の方が5年早い)、それで西との交わりを人生の最期の悦びとして胸に抱き、自死したわけです。

「赤い天使」5.jpg 若尾文子の従軍看護婦としての毅然とした、常に気丈に振舞う姿は良くて(愛人がいる設定は、映画の中で若尾文子が演じる西のイメージにそぐわないと見たか)、岡部に裸になれと言われたり、軍服を着せられ軍靴を履かされて上官と部下の俄か逆転劇を演じさせられたりする場面でも、常にきりっとしているのが良かったです。芦田伸介もカッコ良かった。西が岡部のような年配の男性を尊敬すると同時に好きになる、その気持ちは自然のように思えました。様々な角度から見て傑作であると思います。

「赤い天使」[.jpg「赤い天使」6.jpg「赤い天使」●制作年:1966年●監督:増村保造●脚本:笠原良三●撮影:小林節雄●音楽:池野成●原作:有馬頼義●時間:95分●出演:若尾文子/芦田伸介/川津祐介/赤木蘭子/千波丈太郎/喜多大八●公開:1966/10●配給:大映●最初に観た場所:角川シネマ有楽町(大映4K映画祭)(23-02-07)(評価:★★★★☆)

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This page contains a single entry by wada published on 2023年3月10日 20:01.

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